島のいきものはお互いに支えあって、すべてのものがつながっている。その循環を人がとめてはいけないんです。
島の9割が亜熱帯のジャングルに覆われている西表島で、地質や歴史、自然環境、野生生物の生態まで知り尽くし、西表島におけるガイドの草分けとして知られている森本孝房さん。世界自然遺産に登録された理由のひとつである西表島の生物多様性と、危惧されている問題についてお話を伺いました。
島の宝は、西表島の自然環境と生きものたちのつながりそのもの。
西表島は森の島、水の島です。山に雨が降って森を潤し、水滴はやがて川になってマングローブ林を通り、サンゴ礁の海に注がれます。水の流れが自然の循環を生んで、その中でさまざまな生きものが生かされています。島の自然をよく観察してみると、自然界の生きものにはそれぞれに役割があって、何らかの形でつながって助け合っていることがよくわかります。たとえば、蝶は幼虫の時には植物の葉を食べて、羽化したら花の蜜を吸いますけれど、受粉を手伝って恩返しをする。自然界では強いものが弱いものを助けます。一方的に利用するだけでは、利用する側は滅んでしまうから。小さな子どもを守らなければ大人に育ちませんし、大人がいなければ子どもは生まれません。西表の食物連鎖の頂点に立っているのはイリオモテヤマネコですが、そのヤマネコの命も、生態系の底辺にいるたくさんの小さな生きものたちが支えているんです。
島の文化を守ることは、島の自然を守ることにつながります。
昔の人たちは稲作をすることで、自然界のつながりの中での役割を果たしていました。お米を作ることで田んぼに水生昆虫やカニや小魚が棲みついて、それを狙ってカエルや鳥が集まり、ヤマネコもやってくる。自然の恵みをいただきながら、自然と共に生活していた。西表の豊かな自然環境が失われたら、自分たちのくらしが成り立たなくなることもよくわかっていたから、高い山や川や滝に神様がいると考えて自然を敬ってきたんです。御嶽や祭事を通じて、毎年同じサイクルを繰り返して、自然の神様に祈りと感謝を捧げる習わしは現在に至るまで何百年も続いています。こうした島の文化を守ることは、島の自然を守ることにつながっていますから、この先もずっとつないでいくことがとても大切です。
循環する輪をつなぐために自分にできることは何だろう?
自然は常に循環しているので、その輪を壊さないようにすることが大切なんですが、最近は困った問題が起きています。そのひとつが漂着ゴミ。昔の海岸にはガラス玉やびん、缶のゴミが少しあるくらいでしたが、今はプラスチックばかりで、量もどんどん増えています。西表は日差しが強いのでゴミの劣化も早くて、特にプラスチックは割れて細かくなると回収が難しくなってしまう。夜、海岸に行くとカリカリと音がするんですよ。何かと思って見てみたら、オカヤドカリやカニが発泡スチロールを削って食べているんです。マングローブ林にもゴミが溜まって、枝や根っこに魚網やロープが絡まって枯れてしまったり。そういう状況の中で自分にできることは何だろう?と考えて始めたのが、「八重山環境ネットワーク 西表エコプロジェクト」というビーチクリーンの取り組みです。
人間が出したゴミは人間が回収する仕組みが必要。
自然界には掃除屋さんがたくさんいて、落ちたマングローブの葉を貝やカニが食べたり、動物の死骸も最後は微生物が分解してキレイにしてくれます。でも、人間が生み出したものは自然界では分解しない。ただただ小さくなっていくだけで、永久になくなることはないんです。ゴミも元は資源だったわけだから、常に回っていく仕組みが必要で、そのためにはまず、ゴミになってしまったものを人間の手で回収して環境を保全していかなければなりません。観光で西表を訪れる人には、自分で出すゴミは自分で持ち帰っていただいて、そのゴミをリサイクルしたり、適切に処理をしてもらえばいい。せっかく西表に来てくれたわけですから、この素晴らしい自然の中でたくさん遊んで、自然の良さをわかってもらって、今度は自分の住んでいる身近な場所の自然にも関心を持ってもらえれば。そしてその中で、「自分には何ができるか?」を考えてもらえたらいいなと思います。
またん おーりとーりよー👋
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