小浜島のパワーを島外へ届けるのは
僕の使命でもあり島への恩返しでもある
小浜島のつちだきくおさんにお話を伺いました。
シンガーソングライターのつちだきくおさんは大分県出身。30年以上も島で暮らす移住の先駆者でもあります。
小浜島に歌いに来たことがきっかけで「八重山病」に
小浜島へ移住することになったきっかけを教えてください
僕が歌手になったのが、ポップコン(ヤマハポピュラーソングコンテスト)がきっかけなんだけど、その主催者でもあるヤマハの人に「小浜島にヤマハのリゾートホテルがあるから歌っておいで」といわれて、「はいむるぶし」に歌いに行ったのが小浜島へ来たきっかけ。それから何回か島へ歌いに来るようになって、どんどん島の魅力にハマっていった。
島から帰ってくると「やっぱり島って良かったかも」と思い、またその良さを確かめに島に来ると「やっぱりダメかな」と思ってまた本土に戻るというのを繰り返すうちに、小浜島にいる比率の方が高くなってきてしまった。人が生きていくって事を考えたときに、自分はここでのんびり生きていく方が似合うなって思うようになってね。これを自分で「八重山病」って呼んでいるんだけど(笑)。それで、結婚を機に小浜島に住むことを決断しました。まずは1年だけ頑張ってみようって。
移住者として暮らすには島の人の下に立つ意識が大切
移住者としての島暮らしは苦労も多かったのでは?
小浜島の移住者としては3人目なのかな。子育てを最初から最後まで島でしたのは僕が初めてかもしれない。「はいむるぶし」のステージで歌いながら集落の貸家で暮らせることになったから、よりディープな経験ができた。大家のおばぁちゃんがとってもいい人で、凄くお世話になったなぁ。最初は島の言葉もわからないし、本当に外国にいるみたいだった。とにかく文化が違うから、3年くらいは驚きばかりでした。
子供は完全に島育ちだけど、今は島外に出ています。昔は移住者がいなかったから、子供も大変だったと思うよ。苦しいこともたくさんあった。だけど当時は、なにがあろうと島の人の下に立つという意識だけは忘れないようにしていた。同じく移住者でもあった当時の「はいむるぶし」の支配人にいわれた言葉なんだけど、「絶対に島の人の上に立とうと思うな」って。だから島の人の下に立つという意識で、行事ごとも雑用も頼まれたら断らずなんでもやるって決めていた。やっぱり移住者って目立ってしまうから、いろいろいわれることも多くてね。最初はいちいち気にしていたけど、ある日ふーっと力が抜けて、「もうやめよう」って思えた。15年くらいかかったけど、子育ても終わって心がフラットになったのかもね。
僕は引率みたいなもの。ばぁちゃん達のパワーが届けばいい
KBG84をプロデュースするようになったのはいつからですか?
小浜島には80歳になったら入ることができる「小浜ばぁちゃん合唱団(KBG84)」というのがあるんだけど、何気なく「あんたたちを東京に連れて行ったらさぞウケるんだろうねぇ」って、ついポロッとこぼしちゃった。そしたら「じゃあ冥土の土産に連れて行け!」ってばぁちゃんたちに脅されて(笑)。結局、2011年の僕の東京公演に連れて行くことになった。ボランティアの人と一緒に48人を引き連れて。まぁ大変だったけど、ステージは大成功だった。ファンの皆さんもとても喜んでくれてね。それで、元気な小浜のばぁちゃんを島の外の人達に紹介するのは、僕の使命だと思った。KBG84は『徹子の部屋』にも出演させてもらったし、海外公演にも行ったんだよ。ばぁちゃんたち凄いよね。
実は、2020年に沖縄本島に行く計画もあったんだけど、新型コロナの感染拡大でダメになっちゃった。みんな楽しみにしていたから、落ち着いたらやってあげたい。あとは、石垣島で入院している元メンバーのばぁちゃん達も励ましてあげたいんだよね。バスツアーみたいに、メンバーを連れてね。そういうふうにKBG84のばぁちゃんたちを通じて島へ恩返しできればいいと思ってる。ここで子供を育てられた事への感謝だよね。
移住者だからできることをこれからも続けていきたい
これから小浜島でさらにやりたいことってありますか?
小浜島の中で自分のブランドを立ち上げたい。藍染めの手ぬぐいなどをネットで販売したりしてね。KBG84だけじゃなくて、島の中に眠っている才能はまだまだあるから、それをプロデュースしたいなと思っています。それから、島の黒糖の価値も上げたい。今は値段が安すぎると思う。本当に良いものだから、付加価値をつけてどうにかそういうところをなんとかする手助けもしたい。移住者だからこそ、外から島を見ることができるからこそ、やれることってあると思うから。
あとは、こんな時代だからこそKBG84を通じて「楽しく年取れるといいね。波瀾万丈どんとこい。なんだって笑い飛ばすよ」っていう、そんな大らかな元気な気持ちを発信できるといいなと思っています。ばぁちゃんたちは僕のことを「良き息子であり良き恋人だ」っていってくれるんだけど、僕にとっては良き恋人かな? でも、そう言ってくれるのはうれしいよね。少しは認めてもらえたのかなってね。これからも、僕にできることはなんでもやっていきたい。
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